丹沢; 丹沢三ツ峰
(たんざわみつみね)

ハードだったが満足度は充分の山、山、山・・・


 H6年4月27日(水)当日発 ;
 Member.計3名

 【コース】(=は乗り物、〜は歩き)
小田急、登戸駅5:28=渋沢6:29着=(タクシー)=大倉登山口(300m)6:45〜掘山(945m)8:50〜花立(1370m)9:50〜塔ノ岳山頂(1490.9m)10:10-50〜竜ヶ馬場(1504m)11:30-35〜丹沢山山頂(1567.1m)12:00-10〜太礼ノ頭(たれい1352m)13:00-10〜円山木ノ頭(えんざんぎ1360m)13:35-40〜本間ノ頭(1345.4m)14:05-15〜高畑山山頂(766m)16:30〜三叉路18:00着18:06発=(バス)=本厚木駅19:00頃=(小田急)=登戸駅

 このハードなコースをよく日帰りで出来たものだとただただ皆の執念に感心する。当初一泊の予定を日帰りにするにはかなりの不安があった。それを思い切らせてくれたものは今までの経験だった。何より励みになったのは、昨年5月の蕎麦粒山から川苔山に縦走したという体験だったかもしれない。先生のご連絡によると蕎麦粒は16キロ、今回は21キロと言われる。

 自信の上に時期と時間と体力を考慮してゴーサインを出したのは、プランを練りに練って、それぞれの自覚を再確認してからだった。

 本音を言えば私は不安のほうが強かった。メンバーは果たして大丈夫だろうか?そして何より私はどうだろう?と。山から帰ればほとんど歩かず、たまに出れば車と自転車の生活で、果たしてエネルギーが続くだろうかと。それ程に前回(4/15陣馬〜高尾)から今回にかけて何も出来なかった。この間なんと長く感じたことだろう。早朝の車内で「家に何か不安を残してきていますか?」と聞かれたとき、その洞察力のするどさに驚くと同時に反省させられた。私は何かあってもあまり言葉に出さない。でもポーカーフェイスができないようだ。相変わらずちっとも成長しない。

 雨の心配はない、とはいうものの車中から眺める丹沢山系は霞んでいた。「今日一日こんなものでしょう」と言われる先生の言葉を、今回に限らず、常に正確な情報を掴んでおられるという安心感を以て受けとめる。そしてその通りこの日は一日、太陽に照りつけられるという心配もなく、雨にも降られず、爽やかなハイクが楽しめた。

 駅の階段はエスカレーターに変え、大倉からはタクシーに切り替え、そのエネルギーと時間を極力これからの登山にふりむけた。

 タクシーを降りて出迎えてくれたもの、それはシャガとムラサキケマン、ジロボウエンゴサク、タチツボスミレの花たちだった。ジロボウエンゴサク…お久しぶりねと心の中でつぶやいた。こうしてつぶやいた花がこの後も次々現われてくれて、なんと嬉しかったことか。続いて歓喜したものはヤマルリソウ。このように群生した場面は初めてで、昨年大山で見た時のことを思い出しながら、その紫の可憐な花を見つめた。日陰に咲く花とは思えないほど愛らしい。逆境にも負けず、明るく生きているけなげさを感じる。

 また、桜が見事だった。ヤマザクラ、マメザクラ、オオシマザクラ、エドヒガンなど、たっぷり堪能した。ここでもお花見ができてよかった。

 右手に霞んだ表尾根(一昨年10月登頂)や大山(昨年3月同)を懐かしく眺めながら登る通称馬鹿尾根は、予想以上にきつかった。登るほどに遅れている春を有難く思いながら、言葉もなくひたすら登った。それでも数少ないながら、人と行き合うときには笑みが溢れる。微笑みの中に同じ苦しみを分かち励ます、そんな山での気概が私は好きだ。

 塔ノ岳到着は予定をはるかに上回った。貯金が40分もできてお陰でゆとりと自信とを同時に持つことができた。第一の難関は先ず突破した。随分と手が加えられてすっかり変わったその山頂で1頭の鹿とも対面し早めの食事。ガスで残念ながら展望は望めなかった。少しでも時間を無駄にできない今回のようなロングコースには、丁度よかったかもしれない。

 当初泊まる予定だったそこ、尊仏山荘のおじさん(お兄さん?)に「(三ツ峰に行くなら)もう、早く行きなさい」と促され、挨拶して出発したのはそこに到着予定の時間だった。

 余裕は気持ちのゆとりを生む。ゆとりは時として油断となるが、今回はそれぞれが時間を意識して歩いた。プランのハードさをしっかり頭においていた。これも先生の緻密な計算が、私の粗雑なプランを立派に裏付けて下さったからこそ。温かい気配りにいろいろな面で支えられて、心強い限りだ。

 塔ノ岳から歩き出して間もなく、思いがけずキクザキイチゲに出会った。昨年6月に尾瀬で見て、それ以来だ。先生とお会いした頃(今も変わらないが)、久しぶりに会った花や、珍しいものに、いつもとても感激してらしたが近頃は私にもそれがよく分かってきた。新しい花はもち論のこと、こうして一年振りに出会う花のなんと愛らしいことか。なんと嬉しいことか。

 竜ケ馬場を経て丹沢山に至るまでの間は比較的歩きやすい。しかもそこまでは以前にも歩いているので様子は分かっており、安心というゆとりもあった。それにしてもなんという荒廃ぶりだろう。豊かなブナ林だったろうに巨木は無残にも朽ちて倒れ、苔がびっしり生えている。まるで墓場だと思った。山が泣いている。百名山の一つに数えている深田久弥氏が親しんだ頃はどんなだったろう。恐らく天城の原生林の様相を呈していたのではないだろうか。もっとも丹沢山だけではなく、奥深い丹沢山系全体の立派さを賛えたものらしいが。

 平日でゴールデンウィーク前にも関わらず、ここまでは何人かの人達に会ってきた。さすが人気のある山だ。しかし丹沢山頂から宮ケ瀬にぬける三ツ峰山稜は誰一人会わなかった。追い抜いていく人もなく、ましてはち合わせする人とていない。それもそのはずここの芽吹きは遅い。尊仏山荘のおじさんが5月末から6月にかけてシロヤシオがきれいだと教えてくれたからその頃なら賑わっているのだろう。それでも落ち葉の間からエンレイソウが、まだ眠たいとでも言いたげに葉を丸めて出ていた。花びらの白にほんのり緑色を残したままの早起きさんもいて、私はまたここでも嬉しくなってしまった。ツクバネソウは全山通して4枚の葉を元気に伸ばしている。

 目的の三ツ峰に向かい最初の峰(太礼ノ頭)は、まあこんなものだろうと思いつつ息を切りながら乗り越えた。ところが二つ目の峰(円山木ノ頭)は辛かった。急勾配で整備した丸木の階段はすっぽ抜けて頼りにならず、息は荒くなるばかり。リュックは軽かったにもかかわらず、両腕がとてもだるくなった。大変なコースだというのに私はこの日もビデオを右手から離さなかったが、この時ばかりは何度か持ち替えた。ビデオが、というより両の腕がやたらに重くてだるかった。こんなことは今までに記憶にない。運動不足がたたっていると思った。これは塔ノ岳を登っているときにも気がついていた。

 三つ目の峰(本間ノ頭)は二つ目に比べればずっと楽だった。とはいうものの一度手前の小峰に騙されてまだ先だと察した時は、毎度のことだと思いつつ失望の色は隠せなかった。後は気力で登っていた。

 こうして第二の難関も通過した。このあとは長い下りだ。ガレ場あり、はしごあり、やせ尾根ありと随分危なっかしいところがあったが、目的の大きな山を乗り越えて、ようやくまた周りに目を向けられる余裕がでてきた。

 一際目についたものにトウゴクミツバツツジがあった。そしてイヌブナの若葉が初々しくてやさしく私たちの目に映った。たまらなく美しい。山頂にはミネツツジの蕾がまだかたかったが、この辺りに来ると再び山桜などが見られた。急ぎ足だった為、丁寧に見聞きできなかったのが残念だったが、それでも今まで見てきたミヤマシキミとは別にシキミがあって、比較することができた。シキミはミカン科で香りがあり、白い花も見れた。アカガシの巨木に驚き、その実と葉の特長を伺って尚も進む。距離は長いものの緩やかな下りで歩きやすく、多少の時間の余裕もあったため気分は快調。休まず進みながらも相変わらず三人の頭は右に揺れ左に揺れという様に忙しない。日当りの良い所で銀竜草を見つけ、納得できないとけちをつけた。

 そして再び出会ったヤマルリソウやチゴユリにさよならをして、宮ノ平ではなく一つ手前の三叉路のバス停に着いたのは5時40分。予定の時間よりだいぶ遅くなると思っていたのに20分早く着いた。着いたら途端にお腹が空いて、私は先生から戴いたお稲荷さんと余ったおにぎりをぺろりとたいらげてしまった。

 今回は39,500歩だったが?。蕎麦粒の時より距離が長いのに歩数がかなり少ない…と、その文明の利器、万歩計の機能に疑問を抱いている。平地と傾斜面の測定とは同じようにはいかないのだろうか。とにかく怪我もなくこの長いコースを無事に歩き終えて良かった。

      “三ツ峰や吾が足跡を道筋の花に刻みて急ぐ21キロ”