【谷川岳、笠ヶ岳より】右
【コ ー ス 】
(〜は歩、休憩時間含む)
【一日目:7日】
土合駅(640m)6:50〜土合橋7:00〜松ノ木沢ノ頭(1484m)〜白毛門(1720m)10:20-45〜笠ヶ岳(1852.1m)11:45-12:05〜朝日岳(1945.3m)13:25-40〜清水峠(1504m)15:35(幕営)
(所要時間約8時間45分・・休憩含む)
【二日目:8日】
清水峠5:40〜分岐6:30-35〜大源太山(1598m)7:25-45〜分岐8:35-40〜七ツ小屋山(1674.7m)8:45〜蓬峠(1529m)9:25-50〜武能岳(1759.6m)10:40〜笹平11:00-10〜茂倉岳(1977.9m)12:45-50〜一ノ倉岳(1974.2m)13:10-55〜オキノ耳(1977m)14:45-50〜トマノ耳(1963.2m)15:00〜分岐15:10〜ラクダノ背16:00〜西黒尾根登山口17:40〜土合駅(640m)18:10
(所要時間約12時間30分・・休憩含む)
山は素晴らしい紅葉でした。里の方はこれからが楽しみです。
【一日目】
谷川は近いので前夜発日帰りの可能な山だ。でも歩くなら2、3日かけて歩きたいと以前から思っていた。今回3連休となったため行きたいと思っていたコースを一通りいれ、予定では今回のコースから平標へとつなげるつもりだった。しかし快晴の一日目を過ぎた後の天気予報では天気が崩れそうだということで予定を一日繰り上げることになった。谷川はその点縦走とはいえ、一日でも二日でも、叉、ハードでも楽なコースでも自由に変更できる実に予定を組みやすい山といえる。しかも展望抜群、水場も豊富、湿原と池塘があり、山の景観も美しい。二千メートル足らずの山域で山歩きの醍醐味を十二分に味わえる山だと思った。
前夜発で関越から入る。連休前だというのに環八も関越も空いていた。しかし出発が遅かったため土合駅前に着いたのは夜中の1時少し前。早朝出発は無理なので6時起床の予定だったが、朝方5時過ぎから外の賑やかな話し声で起こされた。外を覗くと日帰りらしい山支度の団体でいっぱいだ。記念撮影をして出かけたあとには重装備の若者数人、クライミングらしいパーティ数名が残っているのみ。私達も朝食をとり、身支度を整え、駅で登山カードを書いて出したあと、ゆっくりと出発。
天気は快晴、今回も雲一つない素晴らしい青空だ。一日目のコースは5年前の9月にも一度歩いている。今年の2月には松ノ木沢ノ頭まで行っているから、足を踏み入れるのは今回3回目ということになる。土合橋登山口から歩き始めるとそこにも広い駐車場があり、既に十数台停まっていた。有料と書かれていたが、どうやらスキーシーズンの時だけらしく、人はいなかった。
沢を渡るといきなりの急登だ。この辺りはまだほとんど紅葉していなかった。樹林帯の中を歩くが朝の空気は爽やかで、歩くには丁度良い季候だった。やがて西方面の木の間から谷川岳が見えてくる。展望の良いところでその景観を眺めるのはいつもながら圧巻だ。あの絶壁をクライミングをする人がいるのだから凄い。今若くなれるものならもう少しウエイトを落としてやってみたいとちょっぴり思う。歳も余分な贅肉も蓄えすぎた。これからも安全登山を楽しむことにしよう。
松ノ木沢ノ頭に出ると目の前にやっと白毛門が現れる。今年の2月真っ白だった山が、今は秋色に染め始めている。白毛門も谷川の山並みも、あの時の白さが強烈に胸に迫ってくる。その時は埋もれていたが、改めて見ると松ノ木沢ノ頭と書かれた杭が打たれていた。今年の有雪期(2月)は仲間と共に、彼等のお陰でここまで来れたのだった。白毛門や谷川、そして東側に尾瀬や上州方面の山々、南に秩父の山並みが広がって、飽くことなくかなり長いこと眺めていたのを思い出す。
左【左・笠ヶ岳、右・朝日岳方面、白毛門より】
その松ノ木沢ノ頭から目の前の白毛門をめざす。ここも登り応えがある。大きな岩を眺めながらどちらがジジでどっちがババだろうかと5年前の疑問をそのまま引きずったままだ。白毛門山頂に着くと今度は目の前に笠ヶ岳から朝日岳方面への稜線が見えてくる。既に先客が数名、私達も展望を楽しみながらそこで早めの昼食にした。そして山頂にある山の方位展望図を見て山座同定。
白毛門から少し下がったあと、笠ヶ岳まで再び急登になる。樹林帯に変わって笹の風景となり、振り返れば変わらぬ風景がそこにある。なのになぜ、いつもこう胸がときめくのだろう。この変わらぬ姿を眺めるために山に登り、感激し満足して、日常の生活に戻っていく。なんと他愛のない喜びだろう。
左【笠ヶ岳より朝日岳を望む】
笠ヶ岳山頂も叉ぐるりと見渡せる展望場だった。以前来たときはガスっていて、残念ながらこの素晴らしい展望は見られなかった。今夜の幕営予定地の清水峠の小屋やその先の七ツ小屋山、奥には大源太山も見える。同じコースを2度歩くより別コースを歩きたいと思っていたのだが、夫の希望を入れて良かった。お天気は最高で上着をはおる必要もなく、長袖シャツをたくし上げるほどだった。一日この調子で時折吹く風が心地よかった。山頂に立って驚いたのは北斜面の見事な紅葉だった。これからいく朝日岳方面の斜面が赤や黄色に染まっている。
山頂直下には小さなドラム缶型の避難小屋がある。「消えし子の・・」と始まるプレートが取り付けられた息子の母校の遭難慰霊の避難小屋のようだ。5人くらいは入れそうだ。中はきれいで使用者用のノートが紐に掛けられてあった。以前来たときもそうだったが、知らない子とはいえ何とも複雑な思いで眺めたものだった。5年後も変わらずきれいに使われていて嬉しく思った。
いくつかのアップダウンを繰り返し朝日岳に着くとその広い山頂には10人以上の人が休んでいた。今まで見えていた白毛門が見えなくなった。白毛門からは大烏帽子のピークがあって朝日岳山頂は見えなかったのだ。越後三山や巻機山方面が見える。あれは荒沢だろうか未丈だろうかと思いめぐらすが、そのあたりは定かではない。山頂を少し下ったところに湿原が見える。側には水場もあるはずだ。前回ここで幕営したが、ガスがかかっていたため周囲の風景はあまり記憶にない。木道がこんなにも整備されていただろうかと思いつつ、ただ、テントの中ですき焼きをつつきながらの楽しかった雰囲気やお化けの話で盛り上がったことを思い出していた。
水場から先は宝川温泉へと木道が続いていた。その分岐を通り過ぎ、巻機山への分岐があるジャンクションピークも過ぎ、下り斜面になると巻機山へとつづく稜線が見えてきた。そして清水峠の先には大源太山があり、その右奥に飯士山が見える。飯士山から見た大源太は鋭く天をさし、近寄りがたい山に見えた。以前から気になっている山だった。しかし飯士山から反対側のこの高い位置から見るとそういった雰囲気は感じられない。一気に400メートル以上下るが、樹林帯で視界が遮られると段々夫の元気がなくなった。やっと視界の開けた池塘のある池の窪で休憩をとる。あとひと息、目の前の鉄塔を目指してその小高い山を越えれば清水峠だ。
清水峠には小屋が二つあるが、避難小屋は手前の小さい方だ。大きい方はJRの送電線監視小屋で使えない。避難小屋は外壁がきれいになっていた。今回テント泊なので中には入らなかったが、前回ここで休んだ時見た目より中は広く感じたように思う。10名は楽に入れるのではなかったろうか。
水場は送電線監視所の前の分岐から左右どちらでもあるようだ。私は左側の方へ下ったところで取水したが、先客がいて「チョロチョロで時間がかかりますよ」と言っていた。しかしその数歩先にも水場があり、そこは沢山流れていた。この日のテン場には二人用のテントが5張り程と、送電線監視所の方にも何張りかあり、まだ余裕はあった。夕飯は豪華にウナギと海藻サラダ(プチトマト、キュウリ入り)。
【二日目】
夜中風が強くて何回か目が覚めたが、4時頃起きると風はやんで、外は星空だった。天気予報では晴のち曇り、夜になって雨。昨夜の段階で、二日目の天気と予報によって三日目の予定を決めようということになっていた。明るくなりだした頃テントをたたんで出発。
左【大源太山】
七ツ小屋山方面へ登っていくと背後の東の空は明るくなり、笠ヶ岳から朝日岳の稜線がシルエットになって美しい。大源太山が大きく見えてくると夫がそのルートを目で辿り、「えーっ・・」と一言。そして「待ってるから一人で行って来いよ」と言いつつ、朝でまだ元気がいいものだから、充分行く気にはなっている。分岐に荷物をおいて空荷で行こうとすると、一旦そちらへ向かった先客の年輩のご夫婦が苦笑いしながらすぐ戻ってきた。大源太に行きかけてやめたらしい。先にすすんで一度大きく下り、そのまままっすぐ大源太山頂へ直登している登山道を見るとなるほど、引き返したい気持ちも分からないではない。しかし今回の目的はこの大源太と谷川だった。当初白毛門からの馬蹄縦走ではなく、旭原から直接大源太に登るつもりだったのだ。上越のマッターホルンがどんなものか楽しみだった。
ひとまず分岐から下っていき、先の夫を少し待つ間大源太を眺めていると、鹿が一頭大源太の登山道を駆け上がっていくのが見えた。夫に言うとなぜか「おーい」と呼びかけた(オイオイ・・)。鹿が立ち止まって振り向いた。大きな立派な角がついていた。夫は大きく手を振って「今行くからなー、待ってろよー」と叫んでいる。「・・・・」唖然呆然、おもわず吹き出す。鹿は私達に気がついたあと、再び上に向けて駆け上がっていった。
真っ白なお尻が可愛い。やがて左斜面へ消えたようだ、ピークは踏まないらしい。
風や雨の時は歩きたくないコースだが、この日も天気は良く、風もおさまっていた。申し分のないお天気だ。あと少しで山頂というところで鎖場になった。「おもしろいな」「おもしろいね」と言いながら登って行った。山頂はこの日一番乗りのようだった。それほど広くない山頂だったが、思ったより狭くはなかった。改めて飯士山や湯沢の町を眺めた。とうとう来たヨ、と飯士山から眺めた自分に声をかけたい気分だった。旭原のコースから登ってくる人の姿が小さく見えた。登り甲斐がありそうだ。堂々とした巻機山も見えて、素晴らしい。やがて若い男性二人も私達と同じコースからやってきた。お互いに「凄いコースだったね、足がすくんだね」などと言いつつ声も顔も笑っていた。充分堪能し、下りようとすると夫がまた煙草に火を点けていた。ここで一句『山で吸う最期の一服かも知れず』・・ブルブル・・。お口直しに『一仕事した気にさせる大源太』お粗末。
無事鎖場を下り分岐に戻る途中、学生のパーティ5、6名とすれ違った。黒の揃いのシャツに先頭は茶髪の青年だ。今時の子にこうして山で出会うのはいつもながら嬉しい。健康的だからでもあるし、同じくらいの年令の子を持つ親の目になってしまうのかもしれない。分岐で再び重たいザックを背負い七ツ小屋山へ向かった。5分とかからぬ場所だ。名前の謂れが気になるが、書いてあるわけでもないのでそのまま通過した。少し下ったところは小さな湿原になっていた。今回の縦走コースは紅葉と草紅葉できれいだったが、夏は高山植物が沢山咲いてさぞ美しいことだろう。
蓬峠の蓬ヒュッテの陰でひと休み。前日早朝に出発して大源太をカットすればここまで来れる。一泊二日で軽装の人が多いのも、この期間営業の小屋があればこそ。水場は10分ほど土樽方面に下ればあるようだ。テン場も広い。茂倉岳から下りてきた人たちがここでビール(¥600)を買って飲んでいた。そのまま下山すると言い、分岐で分かれ私達は武能岳、茂倉岳の谷川方面へと向かった。
風が冷たくなっており、風避けに合羽の上着を着ていたが、絶えず気になるのは空模様だった。東側からガスがあがってきて谷川岳に着く頃はすっぽり隠れてしまうのではないかと思ったが、幸いほとんど展望は良かった。武能岳前後の低いところで少しガスがかかった程度だった。終始前日歩いた稜線と、右前方には平標山へ続く稜線が見渡せた。低い笹に被われ、潅木は紅葉で彩られ、谷川はきれいな山だと思った。谷川岳最高峰、茂倉岳に立ったとき、更にそう思った。一ノ倉岳からオキノ耳、トマノ耳を眺めるとうっとりするほど美しい。平標山への稜線も魅力的だ。やはり予定通り歩いてみたい誘惑にかられる。
一ノ倉岳へ向かう途中、足下になんとハクサンフウロが一輪と、ハクサンイチゲが数株まだ咲いていた。もう10月だというのに驚いた。リンドウやウメバチソウ、アキノキリンソウ、ヒヨドリバナ、ノコンギク、クワガタソウの一種?など、他にもいくつか見ていたが・・・。遥か彼方には富士山が見えた。夫に言われて気がついたがその右に南アルプスも見え、感激だった。昨日といい、今日といい、展望に恵まれて幸運だった。
一ノ倉岳山頂は低い笹に囲まれ、風も避けられて休むには丁度良かった。小さいながらドラム缶型の避難小屋もあった。寝るなら2、3人といったところだろうが、避難ならもっと詰められそうだ。でも積雪期は埋まってしまいそう。この時点でほぼ下山に決まりかけていたが、腹ごしらえと少しゆっくり休んだ方がいいと思い、ここでコーヒーを入れ、クロワッサンサンドを作って食べた。これはクロワッサンに切れ込みを入れ、ハム・チーズ・キュウリ・バター・マヨネーズを適当にはさむだけ、お薦めだ。ここでフィルムが無くなってしまった。この先オキノ耳、トマノ耳の景観も見事だったが、記憶にとどめることにした。ノゾキから一ノ倉沢の方を覗くと白いものが見える。あれは雪渓だったのだろうか?登山道は大勢の人の足で歩き慣らされていたが、岩場などツルツルになっていて、雨の時は滑りやすそうだ。
左【オキノ耳で】
オキノ耳、トマノ耳にはそれぞれに谷川岳山頂と書かれてあった。フィルムが終わっていたため残念に思い、側の若い男の子に予備はないかと尋ねた。「使ってしまったので写してあとから送ってあげます」と言ってくれたので御厚意に甘えることにした(左:送っていただいた写真)。
さていよいよ分岐の肩の小屋。予定通り進むか、下山するか最後の決断。泊まって決断を朝にすれば楽だったが、夜から雨ならやはり下山にしようと決定。既に時間は3時過ぎている。
ロープウエイは5時までというから行けばまだ間に合うが、西黒尾根を下ることにした。天気が下り坂にも関わらず、西黒尾根を登ってくるパーティもいた。この時期、この時間から3時間の下山ルートは望ましいことではない。しかし積雪期に途中まで来ており、登山口も分かっているという安心感と、ほぼ万全の装備を持ってきている安心感もあった。私達は途中の休憩も入れてどうにか薄暗くなるころには登山口に着いた。積雪期に雪洞を掘った場所はどこだったろうかと注意していたが、風景が全く異なって結局分からなかった。あとは舗装道を歩いていけば土合駅に着く。駅に着いたのは6時過ぎだった。予定より一日早く切り上げ最後は強行軍だったが、目的の大源太山と谷川岳を好展望のなか縦走できて満足だった。
心配なのは途中で追い抜いてきた若いグループと年輩のご夫婦だった。ご夫婦は前日も出会っているし、ヘッドライトは持っていることと想像するが、男女7、8名くらい?のグループは全員で持っているのは一人だけだった。街で使うような小さなリュックの子が多く、心配した夫が「ライト持ってる?」と聞いた時の返事だ。そしてお節介にも「下に着くのは6時頃で暗くなるよ、その歩き方では7時くらいになるかも知れないから急いだ方がいいよ」と注意した。(あのねぇ、私はあなたの歩きの方が心配なのよ・・あなたも急いで・・まっ、お互い様だけど・・)という夫への言葉は黙っていた。私達が下ったあと振り返ると彼等は離れて行くばかりだった。岩場や鎖場が思ったより多い。これでは人数が多い分、遅くなるばかりだ。小休止している間に山頂で会った単独行の若い男性が下りてきた。やはり途中で彼等を抜いてきたらしい。一緒に休んだあと先に行ってもらったが、鉄塔の所で下る道が分からないと、私達を待っていたので結局一緒に下山した。若者グループと年輩のご夫婦はその後無事に下山できただろうか・・
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