那須;朝日岳〜三本槍岳
(あさひだけ1896m、さんぼんやりだけ1916.9m)
   春の新雪で様々なケースが凝縮された変化に富んだ山歩き

 H12年4月15-16日(土日)前夜発・ 天気;15日曇りのち雪、16日曇り風強し
  Member.2人(夫婦)

【那須岳、朝日岳より】右

 【コ ー ス 】
(〜は歩、休憩時間含む)
15日=峠の茶屋(駐車場)6:05〜峰の茶屋7:00〜朝日岳分岐8:10〜朝日岳(1896m)8:20-30〜朝日岳分岐8:35〜熊見曽根1900mP8:50〜北温泉分岐9:20〜スダレ山9:40-50〜三本槍岳10:55-11:35〜北温泉分岐12:30〜清水平12:40-55〜朝日岳分岐13:45-14:10〜峰の茶屋15:35〜避難小屋15:45
(所要時間約9時間40分・・休憩含む)

16日=避難小屋7:00〜峰の茶屋7:50〜峠の茶屋(駐車場)8:30
(所要時間約1時間30分・・休憩含む)


 この両日は越後の巻機山を歩く予定だったが、同行者が母上の怪我のため行けなくなった。私達夫婦二人になったため巻機山は叉の機会にということで、急遽那須岳に行くことにした。残雪状況が気になったが、何より心配なのは風のことだった。この時期に登っている記録は少なかったが、情報によれば強風のため山行を断念とか、大変だったとか、そういうのが多い。那須町の役場にも道路状況や残雪情報、ロープウェイや避難小屋のことなど電話で確認をとった。やはり危険を伴う時期の登山だけに実際に行ってみると、その返事はかなり慎重だったということが分かった。だが連日強風が吹き、ロープウェイも運休が多いという。やはりその強風という自然現象が一番不安だった。重ねて天気は下り坂。とにかく現地で判断するしかない。

 夕方まだ暗くなる前に自宅を出発。途中食事や休憩をしながら行ったので那須ICを下りたのは23時頃。途中コンビニに寄り、那須ロープウェイ方面に進む。その辺りまでは除雪されていると聞いていたが、実際にはその先の峠の茶屋県営駐車場まで道路はきれいに除雪されていた。夜目に那須岳が浮かび上がりその斑な雪模様にびっくりした。「まだかなり雪が残っています、降雪は40〜50センチ・・」と言われたイメージとあまりに違った。広い駐車場に車は既に3台ほど(翌朝見ると、いずれも空車だった、山泊の人だろう)。トイレはまだ閉鎖されていた。24時、おぼろ月夜で風はやさしい。明日も穏やかであってくれますようにと祈るような気持ちで車中泊。

 翌朝5時起床。空はやや明るく風はない。出発は6時頃。果たしてこれだけの装備が必要だろうか、と思うくらいの完全装備で久々にザックが重たい。避難小屋泊の予定だが万が一の為にテント持参を含め、12爪アイゼン、わかん、ピッケル、食料などで二人ともおそらく17〜18キロはあっただろう。途中地元の男性二人(この日出会ったのはこの日帰り登山の二人だけ)に「どちらまで」と聞かれ、「三本槍岳と南月山までそれぞれ往復」とは恥ずかしくて答えられなかった。夏ならば日帰りコースだ。そしてこの日は見た目に雪は少なかった。心に「重たい荷物背負って日帰りになりそうだ」との甘い思いがあった。

 重い足取りで登りはじめて20〜30分ほどは数多くの踏み跡のついた雪の上を歩いたが、その先はすっかり夏道だった。そして幸いなことに風はそよ風だった。さっきの二人組は途中からコースを変えたようで、姿が見えなくなった。廃屋とばかり思っていた峰の茶屋は新しく小屋が建っていて驚いた。強風の通り道を物語るように鎖で固定されて、戸は開かなかった。山開きは5月8日ということなので、その日がこけら落としとなるのだろうか?

 先に茶臼を登る予定だったが天候が落ち着いている内に朝日岳の方を先にする事にした。先ずは目の前の山を捲く形になる。しかしそこは雪渓の急傾斜で登山道が隠れ、トラバースする事になる。古い踏み跡は風で飛ばされ雪面はバリバリで、足を滑らせたらスリル満点のスピード滑り台を体験できそうだ。無雪期でも要注意という地図の危険マークはここの事かと納得。迷わず12爪アイゼンを装着、ピッケルをきかせていくが、緊張感でピッケルを差し込む腕に力が入る。たまに足がズボッとはまりバランスを崩す。そういう時はピッケルが無かったら危なかっただろう。ここはピッケルとアイゼンが無かったら恐くて私には通れない。

 トラバースが終わったところでアイゼンを外した。再び雪のない道を行く。ニセ穂高と呼ばれるだけあって岩場の山だが登山道は鎖が随所にあり、かなり整備されている。それでも足を滑らせれば危ない所がいつくかあり、細い岩場が凍結して鎖が途切れている所などは緊張した。朝日岳を直登したという朝会った二人とすれ違い朝日岳の肩(朝日岳分岐)に到着。ベンチがあり、そこに荷物を残して空身で朝日岳山頂へ。靄っていたが、茶臼やこれから行く三本槍の稜線、そして西の山並みが望めた。まだたっぷりと雪をたたえている。圧巻だった。一際目を引いたのは三本槍と赤面山の間の、鋭く天を指している三角形の山だった。旭岳(赤崩山)だろうか。夫がしきりと「登りたい気持ちにさせられる山だ」と言っていたが、雪を被ったその山は、見るからに人をよせつけないような印象を受ける。先程の二人がトラバース地点の手前でストップしているのが見える。アイゼンをつけているのだろうか?それにしても彼等はダブルストックだったけど、私なら恐いな・・

 朝日岳を下り、熊見曽根に向かうと雪が降ってきた。雨という予報はここでは雪になったようだ。雪で良かったと思ったのも束の間、かなり大変なことになる。熊見曽根の小さなアップダウンを3つ?ほど通過し、清水平に下りるときは残雪に何回か足をとられ大変だった。腿辺りまで沈むと抜くのに一苦労。雪の無い木道の上をホッとして通り過ぎると北温泉の分岐だ。この頃今まで見えていた山々はガスで姿を消してしまった。迂闊にも三本槍まですぐと思いこんでいた私達は、間もなく右手の山を三本槍岳と思い直登してしまった。おかしいと思い地図と磁石を出し確認。スダレ山(1880m)に登ってしまったようだ。雪が激しくなったのでここで合羽を着、はじめて食べ物(チョコ一粒)とお湯を口にした。

 とりあえず下り、元の場所まで戻った。雪で踏み跡は消え、道標もない。山の姿が全く見えない中で、頼りは地図と磁石だが、地形図でなくエアリアなのが何とも心許ない。夫と私の指し示す方向が微妙にずれていたがここは夫に従う。何回か軌道修正してそれでもようやく三本槍岳に着いた。嬉しかった。朝日岳から山容と位置を確認していたからここまで来れた。そうでなければ既に引き返していただろう。一応写真を写し、風を避けたところで軽く食事をとった。この頃二人はそれぞれにビバーグの場所を物色。避難小屋がいっぱいだったときや、万が一に備え、ツエルトにしようかと思っていたのだが、「強風でテントは駄目です」と那須支所の人に言われていたのでツエルトは止めテントにしたのだった。この時テントを持ってきていた安心感は絶大で、役所の人にも感謝しなくてはならない。

 視界がきいていた時、夫は大峠の方へ回ろうと言っていたが、視界のきかない時点で新しいルートを捜すのは危険だった。それでも10分ほど下れば分岐だからと言うので様子を見て来ようと山頂の道標に従って行ってみた。しかし尾根が見えないのでルートに確信がもてない。行ったところでそちらはもっと積雪量が多く、トレースはあてにならないだろう(熊見曽根を通ったとき、隠居倉を通って三斗小屋方面へ向かう道にも踏み跡は残っていなかった、また積雪も多かった)。その点は夫も不安だったようで、結局は最初の計画通り稜線沿いの元の道を戻るのが安全と判断。そして翌日の天候が不安定なことを思えば今日中に朝日岳の難所を通過しておきたいと思った。

 地図と磁石と勘を頼りに行くと、登りでは見なかった赤テープを発見。そのまま下っていくと元の道に戻った。それでも私達の歩いた跡は既に消えており、今度は記憶を辿って歩くことになった。何回か足がはまっていたので三本槍岳山頂からワカンを装着。かなり楽に歩けた。北温泉の分岐まで戻れば一安心、清水平のベンチでゆっくり休憩してからまた歩き出した。全く雪がなかった木道の上は既に7〜8センチの積雪があった。熊見曽根を登り切ったところでワカンを外す。石ころの上に積もった雪で、歩きにくくなっていた。熊見曽根の稜線を下った所は朝日岳の分岐だ。もちろん山頂はガスで隠れてしまっている。朝、風景を展望できただけでも良かった。温かい飲み物を飲んで、ベンチでゆっくり休む。これからまたいちばん緊張する場所を通過することになる。

 ほとんど雪がなかった朝日岳の肩からの下りも、岩場は積雪で滑りやすくなっている。注意して慎重に通過。そしてトラバース地点に備え、新たに積雪した斜面の歩き方や滑落停止の方法等々、相互に確認し、アイゼンをつけた。夫が先頭を行く。後からついていく方は楽だ。朝の残雪が凍り付いてその上に着雪していると思っていたので、表層雪崩やアイゼンの団子や滑落を心配したが、思いの外新雪の下はいくらかシャーベット状だった。夫の踏み跡が上へ上へと行っているので今朝通過した杭を目指して少し下がって行くようにと声をかけた。半分以上行った辺りだったろうか、夫が「視覚が変だ」と笑いながら言う。朝の踏み跡はすっかり消え、完全な斜面を横切っているのだが、一瞬平らな登山道に見えてしまうと言う。幻視か?とドキッとするが、本人はそれでも確認して一歩一歩足を運んでいる。やはり斜面をやや上がり気味なので今度は私が先に進み、少しづつ下がりながら登山道を目指した。もう少し早めに先頭を変われば良かったかも知れない。

 峰の茶屋も近くまで行ってようやくその姿を現した。茶臼は目の前だが山頂は隠れている。当然展望は望めない。夫はかなり疲れているようなのでそのまま避難小屋へと向かった。相変わらず靄って避難小屋の姿も見えない。三斗小屋方面へ下るものの、こんな雪崩の巣窟のような場所に小屋があるのかと不安になり、途中地図で確認。10分ほど下ったところということだったが長く感じた。が、着いてみるとやはり10分だった。16時前に到着。背後は雑木林で前は広場のようになっていた。小屋は新しくまだ木の匂いがぷんぷんしていた。15人から20人だったら大丈夫そうだ。つめれば25人から30人(はちょっときついかな?)。この日は他に来客もなく、私達だけの貸し切りだった。「ここまで来ればやはり(避難小屋ではなく)温泉付きの三斗小屋泊りよね」と話しながら、夫婦水入らずでこの日の歩きを振り返った。まったく思いがけない雪で緊張感の高まった山であったと。雪はまだ降り続いていた。

 翌朝6時前に起床。天気予報では北西の風でお昼前に天気は回復と言っていた。雪はやんで小屋から茶臼山頂は見えていた。お昼までそこで時間を潰すつもりはなく、7時に出発。この時はもう茶臼山頂は隠れてしまった。前日の朝8時半頃から夜まで降った新雪の部分は10数センチから多いところで30センチ以上あった。いきなり登りのラッセルだった。木立を抜けると前日のトレースは消え、新たなトレースをつけることになった。これはこれで楽しい。しかし風が強かった。不意に来る風に倒れたこともあった。荷物が軽かったら耐えるのがもっと大変だったかも知れない。強風に舞う雪が顔に当たり痛い。被っていた目出帽を下げ、文字通り目出帽にした。10分で下った所が、登りでは50分もかかった。峰の茶屋での風は強烈だった。南月山まで行く予定だったがこれでは茶臼も危険と判断し、そのまま下山した。それにしても昨日の内に避難小屋に着いていて良かった。これでは朝日岳周辺のルートは危なくてとても通れない。夏道が一日で雪山に豹変した道をラッセルしながらも追い風で助けられ、40分で峠の茶屋へ到着。登山者はいまいと思っていたら、先ず4名と会った。しかし彼等は間もなく下山してきた。他にも数名登って行ったがどうしただろう。天気の回復と共に風も弱まってくれれば良いのだが。私達は機会があれば叉登りに来ようとその場をあとにした。