箱根;明神ケ岳〜金時山
(みょうじんがたけ〜きんときやま)
箱根路の一人歩き・・・

 H5年9月2日(木)当日発 ;
 Member.単独

 【コース】(=は乗り物、〜は歩き)
横浜駅5:47=小田原駅6:45-7:00=(バス)=宮城野支所(450m)7:35〜鞍部(900m)〜 明神ケ岳(1169.1m)9:50-10:00〜火打石岳下〜矢倉沢峠(870m)11:35-40〜金時山山頂12:30-14:00〜矢倉沢峠(870m)〜金時登山口(700m)〜仙石15:15発=(バス)=小田原駅?-(買い物)16:20発快速=横浜駅17:06


 今回も思い立って前夜行く事に決めた。夜遅かったため一人で行くことにし、プランを立てた。先ず適期の当てはまるところ…と捜してみたら箱根に眼が止まった。十年ぐらい前に家族で八月末日に行った事があり、たしかすすきやアキアカネなど秋の風情たっぷりだったことを覚えている。だから多分しのぎやすくて歩きやすいだろうと判断した。睡眠不足だったが早めに帰りたいため早めに出る事にした。

 バス停に降りたのは私一人。登山口までの道程ははじめのうち道標がなくて分かりにくかったが地図のコ−スガイドを頭に入れて順調に辿り着いた。別荘、竹林の間を通り抜けて一路明神ケ岳の山頂を目指す。何処にでも咲いている露草、ミズヒキが夜中から明け方まで降った雨露に濡れて新鮮に映った。タマアジサイがまだたくさん咲いていて、やはり箱根はいくぶん涼しいのかと思いつつ何度目かの再会を喜ぶ。かなり登ったところで思いがけなく、マツムシソウを見つけた。三ツ峠で一輪だけ見つけ、その時先生に教えて戴いて以来。思わず顔がほころんでしまう。しばし眺めてゆっくりまわりを見回すとフジアザミが蕾をふくらませてまさに咲く寸前だった。ウツボグサはこれから咲くのか終わったのかよくわからなかったがやはりたくさんあった。

 天気が良ければ景色も良いのだろうにと思いつつ、ガスに包まれた、誰もいない広々とした外輪山のうえを歩いて行った。あふれるばかりのマツムシソウが私を慰めてくれた。

 山頂は広かった。天気の良い日などはきっと賑わうのだろう。今日は真っ赤な山肌をみせてその上をやわらかくすっぽりと靄がおおっていた。ここからは普段なら神山、箱根駒ケ岳が綺麗に見えることだろう。

 金時山に向かう間、見晴らしはまったくよくなかった。天気の為ばかりではなく、笹薮におおわれて歓迎してくれたのは蛇三匹に大きなガマ三匹。とても驚いたがそれは彼らの方がそれ以上だったようで、そこそこに退散してくれて助かった。私も強くなったものである。

 笹が濡れていて、私は身体中びっしょりになってしまったがススキの合間にアザミ、ナデシコ、ツリフネソウ、など色鮮やかに次々現われて、それはそれは素晴らしかった。

 矢倉沢峠迄来て、このうぐいす小屋で初めて人と会った。小屋主の小父さんだったが私の前に三人通ったという。私は明神ケ岳から来たというとびっくりしていた。恐らく他の人は金時山登山口辺りから登ったのではあるまいか。一休みしている間に雨が降ってきた。あと登り四十分の道のりでもあり、雨の降り具合を見て登ることにした。しかしこの登りはきつかった。わずか二時間足らずという睡眠不足と全身がしっとりと濡れたせいで余計そう感じられたのだと思う。羊羹が食べたいとしきりに思った。

 ようやく山頂に着いたのは五十分後。もっと長いことかかったような気がしたが、その割に早かったと思う。傘をさしながらの登山だったが幸い山小屋があったので声だけは元気にコンニチワと入っていった。出してくれたお茶の美味しかったこと。かなり疲労困憊していて横になりたいほどだった。こんなことは珍しい。小屋の小母さんと話したりして1時間半程休ませてもらった。そこのおしるこがとってもおいしかった。休んでいる間に雨も止み、下山の時はもう元気もりもり。一人で「元気、元気」と掛け声をかけながら下りていった。

 途中で年配の男性と同じコ−スを同じようなペ−スになり、そのうち話し乍ら歩いた。若い頃は歩いていてぬかれたら悔しくて抜き返したとか。65才の時百メ−トル走で16、56秒(若い頃は11、4秒)だったそうだ。戦争の時のこと、家族のこと、仕事の話など色々な話をしてくれた。女一人の山歩きはやはり眼を見張るようで、「昔は考えられなかった」と、同年輩の方々皆、同じようなことを言われる。「山に来る人間は、人間嫌い」なのだそうだ。当たらずとも遠からずかもしれない。「ひとり歩きをする人はあまのじゃく」とも言っていたがさてどうだろう。

 バスの中でも色々楽しい話をしてくれて料理をひとつ教わった。しかしこれは胸の内にしまっておいてこっそりいつか家族に作ってみよう。どんな反応が出るかなと今から一人でほくそ笑んでいる。小田原駅でお別れしたが教えて戴いた美味しい蒲鉾を“かごせい”で買い、小屋の小母さんにやはり美味しいと教えてもらった守屋のあんぱんを買って、帰路についた。蒲鉾とあんぱんと、今日も沢山の良い花や人とのめぐりあいがあって心豊かに快速電車に揺られたが、服がしっとりと冷たかったのにはまいった。風邪をひいてはいけないと思い眠ることも出来ず、さりとて考える気力も残っていず、眼だけはしっかりと開いてその余韻を楽しんでいた。

      “登り来てマツムシソウの咲きをりを景色隠して吾に見す靄”