秩父;瑞牆山
(みずがきやま)
人を圧倒する威厳とそっと受け入れる優しさを合わせ持つ不思議な山

 H5年10月22日(金)当日発 ;
 Member.計2名

 【コース】(=は乗り物、〜は歩き)
立川5:25発=甲府7:14-24=韮崎駅7:37=(タクシー)=瑞牆山荘(1480m)8:40-9:00〜富士見平小屋(1820m)9:45〜天鳥川源頭(1800m)?〜瑞牆山山頂(2230.2m)11:45-12:50〜天鳥川源頭(1800m)13:55-14:05〜富士見平小屋(1820m)14:35〜瑞牆山荘(1480m)15:40-16:00=(車)=竜王駅16:50-17:07=甲府駅17:24発=立川駅18:39


 メンバーが一人不参加の為、急遽予定を変更して瑞牆山にした。近い山から登り始め次第に輪を広げていってその中に入ってきた、いつか行きたいと思っていた山だった。   

 6時間くらいで登下山出来るが、少し遠いため、行く前はちょっと二の足を踏む。でも思い切って行って良かった。天気も快晴に恵まれ、紅葉の美しさもさることながら、山そのものも一瞬息が止まる程素晴らしい姿だった。まるで水晶の原石のような輝きを秘めた形で、人を圧倒する威厳とそっと受け入れる優しさが感じられた。一見男性的だがむしろ毅然とした、それでいてやわらかい雰囲気を漂わせているのは何故だろう。瑞牆という名前もいい。とってもすてきだ。行きはタクシ−で荷物をトランクに入れてしまったため、その遠景をビデオに収められなかったのは残念だった。麓の須玉小学校の外壁にその山の姿が描かれていたが、この個性的な山を見事に表現していた。ふるさとの自慢できる山に違いない。  

 瑞牆山荘から登り始めたのは9時。鷹揚に両手を広げて迎えてくれるようなアプロ−チに満足な思いでゆっくり登っていった。辺りは黄色一色のミズナラの林。ノコンギクがもう終わり、リュウノウギクももう終わりかかっていた。このリュウノウギクとは今年は素通りの出会いだったような気がする。一番美しい時期を見ていない。側には黄色いヤクシソウが咲いていた。

 途中若い一人の女性と連れ立って歩き、植物に関心を示してきた。とっても明るい人で大きい声で話し掛けてくるものだからハァハァ言い、気の毒なようだったが、マイペ−スで歩いたり休んだりしてまたすぐ私達に追い付いていた。若さゆえ…羨ましい限り。ハウチワカエデやミネカエデ、オオイタヤメイゲツ(初めて耳にするが今迄にもあったそうだこれまた名前がいい、ハウチワカエデより少し大きい)などの落葉を踏みしめながら時々上を見上げてその美しい色合を満喫する。

 この山は花崗岩だそうで歩く道筋に風化した砂岩またはレキ岩となって滑りやすくしていた。そのことを先生が教えてくださったので注意して歩いたため幸い転ばずに済んだ。秩父多摩国立公園の為商品化はできず、自然石のままの御影石の上を歩いていた訳だ。

 落葉松の紅葉あり、緑濃いコメツガあり、自然林に恵まれた素晴らしい山。コメツガは山頂までりっぱな大木が林になって茂っていた。ナナカマドも多かったにも関わらず、真っ赤な葉は落ちて赤い実が彩りを添えていた。コメツガに似たものにウラジロモミがあったがこれは全体に堅い葉で、コメツガはやわらかかった。

 山頂に近くなるほどに大きな岩がゴロゴロ出てきて同時にシャクナゲの木も次々に表れてきた。六月頃はさぞ見事だろう。ビデオ片手が少々不自由に感じてリュックにしまおうと思ったが、手のない人はもっと大変なのだからとそのまま頑張っていたら、まもなくして下山してくる人が右手の無い人だった。思った直後の事であり、あまりにも奇遇過ぎて心臓が止まるほどにギクリとした。こんな偶然もあるものなのだ・・・。

 挨拶して通りすぎ、そのまま必死で登っていたが途中道を間違え(間違えるほどに道は広がっておりこの山の魅力と人気の程が伺い知れる)、ついにビデオはリュックの中にしまった。まもなく通常の登山道に戻ったが、ハシゴや横木、ロ−プなどを頼りによじ登らねばならず、それこそビデオどころではなかった。岩や木にしがみつきながら頭の中はさっき行き違った手の無かった人を思い浮べていた。右手のどれほどを失っていたのかはっきりとは分からないが、手でつかめない不便さは十分分かった。あの人は自分で苦しみに挑戦して、乗り越えている。きっと、自分に厳しい人なのだろう。年令は定かではないが3、40代位ではなかったろうか。私自身の身の程知らずの甘さが恥ずかしく、天からの訓えを受けたような気がする。   

 ロスしたものの予定した時間前には山頂に到着した。真っ青な空の下ぐるり視界が広がって、登りの辛さをいっぺんに吹き飛ばしてくれた。アドベンチャ−気分を味わった後の山頂は感激を倍増させてくれる。この次はあの金峰山、あのきれいな富士山もいつか、そして八ケ岳も踏破したい、と何度も眺め回しゆっくりビデオを回す。山頂の日当たりも最高でポカポカと暖かかった。陽なたぼっこをしながら寝ている人あり、カメラを構えて富士にかかる雲がきれるのを待つ人あり、無線で交信する人あり、何故かこんな所にも鳩がいて追い掛ける人あり、とにかく岩だらけの山頂を沢山の人が埋め尽くしていた。下山する人、登って来る人が常に一定のようでずっと賑わっていた。雨や曇りの後久々の、この上天気に啓蟄を思わせるような虫ならぬ人の出、平日にもかかわらずと、とても驚いた。年配の人が多く、母娘連れや夫婦連れ、若い男性の単独行も目立った。寒いと思っておでんにしたが、幸い気候も最高だったので有り難みは薄れたがおいしかった。でもこれからはやはり温かいものに限る。

 心行くまで山頂を満喫し下山、同じ道を下りる。急坂で下りられるだろうかと心配しつつ登ってきたが、不安に思った程ではなかった。それでも用心して下った。天鳥川源頭迄きてようやく一息つき川辺で休憩、水のせせらぎが気持ち良かった。ちょうど山と山との谷間で周りは広く、キャンプでもしたくなるような場所だったが残念ながら禁止区域だそうだ。青空と紅葉はここも美しかった。このあと一山越えて再び瑞牆山荘に下るのだがこれからの登りは来たとき同様楽しみな場所だ。行くときの歓喜と登ってきた感慨をもう一度かみしめながら、振りかえって眺めながら歩くことが出来るのだ。

 この美しくて厳しい山、今度いつ来る事ができるだろう。

 富士見平小屋までくれば山荘まではあと一息、30分くらいだ。ところが登りとは違ってゆったりと周りを見回すゆとりがあるものだからついつい長引いてしまう。ミズナラの紅葉した樹林を感動しながら堪能した。こうなると行きに気が付かなかったものに気が付き、ツリバナやマユミに目がいった。会津駒のような下草の実はあまり見られなかった。

 オオカメノキの落葉をひろって「臨終まで看取りましたね」の先生の一節には恐れ入った。花開いたところからずっと見守ってきた所以だ。

 山荘につき、さてバスは?と見ればやはり出る様子はない。増富温泉まで歩くしかないが、そうなると当初の予定どおり帰宅は10時。車で来ている人が多い中に、さっき山頂で写真を撮ってもらった男性がいた。思い切ってバスの発車する増富温泉まで乗せていってもらえるか聞いてみた。気持ちよくOKしてくれただけでなく、実家が甲府駅の近くだからと最寄りの竜王駅まで乗せていってくれた。1時間近いその車中(4WDのごっつい若者好みの車)、31才寅年というその青年はまじめで爽やかな話しぶりだった。ICの設計をしているそうで、登山の経験は浅いようだが歩くのはとても速かった。私達より1時間半も遅く登り初めて山頂で一緒になり、また私達が先に下りてきたにも関わらず追い抜いてゆうゆうと下で缶ジュ−スを飲んでいたのだからすごい。駅でお礼を言い、先生が謝礼を渡そうとしたが受け取らなかった。こんなに良くして戴いて何のお礼も出来ず、また好感をもったこともあって、そのままお別れするのはとても心残りな気持ちだった。縁があればまた逢うこともあるでしょうと言われる先生の言葉に頷き、静かに走り去る車を見送った。本当に有難う御座いましたと心から申し上げたい。

 予定より2時間短縮し、甲府始発のL特急に乗り次ぎが出来て、ゆったりと座って帰ることが出来たのはラッキ−だった。

     “さんさんと温き木洩れ陽ふり注ぐミズナラの杜揺らいで静か”
        “瑞牆の頂きに立つ吾もまた広き宇宙の紺碧の中”
       “人と逢い人と別れしひとときも厚き懐いを残す山かな”

植物一覧(ビデオ収)
 トウヒレン、リュウノウギク、オオイタヤメイゲツ、コメツガ、ウラジロモミ、レンゲツツジ、ヘビノネゴザ、ミヤマワラビ、カニコウモリ、ミヤマウラジロイチゴ、ナナカマド、オオカメノキ、スギゴケ、オオバショウマ、ツリバナ、ミヤマクマワラビ、マユミ、カラマツ、etc