北ア・笠ヶ岳敗退記(抜戸岳まで)
(ぬけどたけ2812.8m)
 残雪の笠ヶ岳へ。無念の敗退!

 H14年6月8-9日(土日)
  天気;8日晴れ、9日雨のち晴れ
  Member.5人(CL増田、川口、田中、
          蒲原、石原)

  【笠ヶ岳:抜戸岳より】右

 【コ ー ス 】
(〜は歩、休憩時間含む)

一日目(6/8)
深山荘無料駐車場5:50〜新穂高温泉でトイレ休憩?-6:05〜笠新道登山口7:08-22〜杓子平の上部(テント設営)14:45
(所要時間約9時間・・休憩含む)

二日目(6/9)
テン場5:00〜抜戸岳5:25-50〜テン場6:10?〜笠新道下山9:50〜新穂高温泉11:00?
(所要時間約6時間・・休憩含む)


【一日目(6/8)】
 今回、いつかは行きたいと思っていた笠ヶ岳に行こうという呼びかけがあって、仲間達と行ってきた。メンバーは5人だが、この組み合わせは珍しい。最近は夫と行くことが多いため、仲間との山行自体、私は久しぶりだった。ベテランと屈強な男性諸氏の中にあって、一応紅一点。体力的ハンデは共同装備を軽くして貰った。

左【笠ヶ岳方面:新穂高温泉より】

 夜中に着いて車中泊。5時起床で、食事身支度をそれぞれに整えて駐車場を出発。駐車場の一番奥が登山ルートへつながっている。川沿いの遊歩道を上流へ向けて歩いている間にもスミレやクルマバソウ、ミヤマカタバミなど咲いていた。新穂高温泉の観光バス駐車場を通り抜け、バスターミナルに着くときれいなトイレがあり、休憩。トイレは暖房が利いていて暑いくらいだった。その広場からは笠ヶ岳の山脈が見える。情報から想像したより雪が少ないように思えた。

左【笠新道入口】

 ゆっくりと林道を行き、笠新道登山口で休憩してから登っていった。三大急登の一つと言われるだけに、はたしてメンバーについていけるか不安があった。しかし、先頭の川口さんのペースがあがり気味になると、リーダーの増田さんがすぐslow downを呼び掛け、その上30分ごとの休憩をとるペース配分だった。

 それでも一人のペースが落ちてきた。新しい靴が合わないのかと思ったが、それだけでは無かったようだ。途中、彼の荷を4人で分担し、再び登り始めたが、この日は最後まで調子があがらなかったようだった。メンバーに迷惑を掛けたとしきりに気にしていたが、誰だってあり得るのだし、皆迷惑とは思っていない。一緒に来たからには共に協力しあって最後まで歩きたいと思う。しかし本人の立場になればそうした気持ちが尚いっそうプレッシャーになってしまうんだよね・・・。それでも頑張ってみんな一緒にテン場まで行けたのは良かった。

左【ヤシオツツジ】

 今回は皆の足を引っ張らないようにと思っていたので、花の写真は殆ど写さなかったが、途中ヤシオツツジやムシカリが咲き、足下にはチゴユリ、ユキザサ、ヒメイチゲ、イワカガミ、イワナシ、ショウジョウバカマなどが目を楽しませてくれた。花より酒の不粋?なメンバーではあったが、それでも目には留まるようでたまには花の名を聞かれたりもした。

 登山道は整備され、下の方ではこれからのシーズンに備えての補強も始まっていた。急な登りで、一歩一歩が大変だ。先頭で長身の川口さんの後を行く私は、同じ歩幅で進むことが出来ない。2歩行くところを3歩かけてついていく。

左【穂高連峰の一部】

 雪が現れたのは標高2000mくらいからだった。それでもしばらくは夏道が続き、振り返れば西穂から槍ヶ岳へ至る稜線が一望できる。今年、雪山の西穂からの稜線を歩いたという増田さんや蒲原さんの思いはいかばかりか。私も8年ほど前に歩いた事を懐かしく思い出した。その時西穂から眺めたこの笠ヶ岳が、今も強く印象に残っていたのだ。その笠ヶ岳に今登っている。

 早々に下山してくる男性とすれ違った。5時から登り始めたが、雪が多く途中で引き返して来たという。ピッケルはザックにつけ、手にはストックを持っていた。夏道の下りならばストックの方が便利だ。私も持ってくればよかったかなと、車に置いてきたのをこの時だけチョット悔やんだ。その後もつづいて一人の男性が下山してきた。この人も断念してきたらしい。行く手の厳しさを感じた。

左【雪渓】

 案の定、だんだんと雪渓が現れてきた。この時はまだアイゼンもピッケルも使っていなかった。雪質はしまっており、表面はキックステップでまだ充分だった。しかしやがて急斜面の雪渓を前に、ルート判断が必要になってきた。これではストックが必要だ。出そうとザックを下に下ろしたとき、蒲原さんが先の様子を見に行った。そこに道はなく、それではどちらの方かと目で捜していたとき、足を滑らした。はじめ緩やかに滑り落ち、止める術もないままに15mほど滑落。幸いにやや斜面が緩やかになったところで無事停止した。ホッと一安心。自力で登ってくるのを待って、少し休憩しながら私たちも滑落停止の心得?を学ぶ。本人はいたって明るい。落ちるときは意外と恐怖心がないものだということを私も知っている。しかし滑落のショックがこの後の行動に多少の影響を残すので、気持ちを早めに切り替えることが大切だ。見習いましょう(学習その1)。

左【がんばれ!】

 安全を考慮して雪渓を横切らず、ヤブをこいで直登することにした。ここからは増田さんが先頭になった。続いて私がついていく。暑かったので半袖だったものだから、やたら痛い。リーダーは読図で夏道は雪渓を横切った先にあるようだと判断。しかし雪渓はやや急斜面。その先が真上の方に向かっているはずだからと、しばらくはヤブをこぐことにする。と、その時後続パーティの4人がその雪渓を直登してきた。それまではトレースを辿ってきた筈だから比較的登りやすかったのではないだろうか。彼等と少し言葉を交わし、直登の先に夏道があると思うがどういう状態か教えて貰うことにした。私たちはアイゼンをつけ、やはり安全を考慮したリーダーの指示でそのままヤブを直登。この時になって私は急にお腹がすいてきた。ヤブこぎはけっこう体力が要る。時間は1時くらいになっていた。そう言えばたいしたレーションをとっていない。「増田さ〜ん、お腹がすいた〜」すると、「元気な証拠ですよ」と増田さん・・・(^-^;;・・・(あのね、だからね、お腹が空いたの・・・)

 この時上を見上げると4人パーティが休んでいた。多分あそこがルート上だろうと判断した増田さん曰く「あそこまで行ったら休憩しましょう」「は〜い」・・・休憩できる場所ばかりとは限らない。単独や夫婦山行とは違い、どこでも休憩がとれるわけではない。いつでも食べられるように、ポケットにはレーションをいっぱい入れておきましょう(学習その2)。

 ヤブこぎの痛さや大変さより、この時ばかりはお腹が空いたのが辛かった・・・

 私たちが着く前に4人パーティは先行していった。そこで私たちが休憩。ちょうど夏道が出ているところだった。見下ろすとやはり増田さんが言うように雪渓の先(上から見ると右側)に夏道が大きく回り込んでいた。それを眺めながらやっとおにぎりを一つ食べ、ひと心地ついた。

左【雪渓を歩く】

 再び雪渓を登り尾根に辿り着いた、と思いきや・・・・はるか彼方に笠ヶ岳の稜線が姿を現す。一同愕然。遠い、なんて遠いのだろう。予定していた笠ヶ岳直下のテン場まで、この日のうちに辿り着けるのだろうか、と思いつつ歩き出すと、その目と鼻の先に先行の4人がテントを張っていた。言葉を交わしたあと、私たちはもう少し上に行くことにした。地図で見ると夏道は眼下の杓子平を通り、抜戸岳の左側の鞍部に出る。残雪のたっぷりある今は、抜戸岳山頂方向を目指して行った。そして笠ヶ岳山荘まではきついと判断、抜戸岳山頂の直下でテント設営となった。

 テントの中に入ってようやく皆でくつろいだ。ねぎらいの声を掛け合って、持ち寄ったアルコールとつまみを分け合い、飲んで食べながら夕餉の準備。この日一日で話題には事欠かない。失敗も苦しかったことも全て共通項の、楽しいひとときである。蒲原さんが持ってきたカツオのはらみは美味しかったが、テントの中で焼いたので煙りモウモウ・・・。その匂いは帰宅後のザックや荷物にも残っていた。今夜のメニューは酢豚と海藻サラダ。食当は私だった。5人分には少ないかなと思っていたら意外にも皆小食だった。疲れて食べられない人、もともと小食の人、お酒飲みで食べない人、それぞれだが、メンバーによって、随分と勝手が違うものである。アルファ米も用意していたが、結局使わなかった。非常食に早変わりであった。食当はメニューと量を、メンバーの顔ぶれで考え、決めましょう(学習その3)。

 翌日は3時起床、4時山頂を目指すことに決め、早々にシュラフへ。しばらくの間話し、8時過ぎたころ眠ろうとしたら、雨音!夜中じゅう、降ったり止んだりを繰り返していた。明日午後曇りの予報が早まったのだろうか。山の天気はやはり変わりやすい。

  二日目(6/9)
 3時、リーダーの起床に合わせて皆も起きた。外はやはり雨が降ったり止んだりしている。お茶を飲みながら、朝食のうどんの用意。途中外の様子を見に行った増田リーダーの出した結論は山頂断念。自然とのんびりモードになった。それにしても、テント泊で短時間の準備を考えると、もっと簡単なメニューでないといけなかった。水もうどんも冷たいし、人数が多くなれば温めるのに時間がかかる。今まで仲間との山行も夫と行くときもこんな調子で食事はけっこうしっかり摂っていた。が、これも山行、メンバーなどで判断の必要あり(学習その4)。

左【抜戸岳】

 テントを撤収し片づけ終わった頃、青空がのぞき笠の姿もくっきりと見えてきた。何という間の悪さ。山頂へ向かうには荷物をまたやり直さねばならない。往復にどれほどかかるか分からない現状ではこれから向かうわけにも行かず、笠ヶ岳の姿を眺められただけでも良しとしよう。とりあえずアイゼンをつけ、ピッケルだけ持って抜戸岳山頂へ向かった。早朝一番の登りはきつかった。私だけかと思ったら、皆同様だったようだ。まあまあ安定の良い場所で笠ヶ岳を眺めた。行けなかった無念さが残る。あと一息のてっぺんに3人がよじ登り、田中さんと私はその場から笠ヶ岳方面と、北アルプスの山並みを眺めていた。壮観であった。てっぺんからみると稜線上は夏道が出ているようであった。もし雨が降っていなければ、行けたなぁ・・・と言いつつ、みんなで記念写真を撮って、テン場まで戻り、同ルートを下山する。

 前日の登りのきつさを思えば、この日の下りもまた気を引き締めて行かなければならないところが続く。笠ヶ岳の稜線に未練を残しつつ、杓子平の上部添いに戻った。最後に山頂を眺めた後、一気に下る。ヤブはあまり通らず、雪渓を何度か横切ったり、下ったりした。先頭の川口さんが少しだけ(3-4mほど)滑った。とっさにアイゼンで滑落停止。「さすが!」と私。「お見事!」と増田さん。

 登りでつけた目印を目安に方向を見、所々で増田さんが先に様子を見に走っていった。雪の上だが何と身のこなしの軽いこと。途中から蒲原さんに代わるが急斜面では後ろ向きになってピッケルを利かせ、確実に下っていく。模範的で確実な歩き方を見習う。私の場合、こういう場所はかなり歩いているし、失敗もあった分慎重だ。しかしいつもと勝手の違うメンバーの中にいて、いつも以上に仲間に迷惑を掛けられないという思いが強くなる。自分自身怪我をしたくないし、リーダーや仲間に負担を掛けないためにも事故を起こしてはならない。そういう私なりのプレッシャーの中で、彼等の行動に学ぶ点は多かった。滑落停止のやり方、カバーの仕方など然り。経験豊富な仲間と一緒の山行ならではである(学習その5)。

左【笠新道下り】

 殆ど夏道になったところでアイゼンを外し、下だけはいていた合羽も脱いだ。天気は良くなっており、暑かったのでホッとする。その頃になると再びイワカガミ(コイワカガミ?)やイワナシ、ショウジョウバカマなどが目を楽しませてくれる。だんだんときれいな新緑が目にはいるようになるが、残雪もまだ所々に現れる。こういうところでうっかり滑りやすい、と思ったらつるりと田中さん尻餅。既に心配する場所ではなかった。2000m位置より下がると視界はブナ林などのきれいな新緑に代わり、穂高連峰の姿が隠れてしまう。途中でピッケルも片づけ、あとはひたすら急な下りを行くだけ。田中さんのペースが落ちたなぁ・・と思い、膝にきているのかと尋ねてみたが、そうではないという。新しい靴だからそのせいかなと思いつつ、なんとかそのまま下山口へ辿り着いた(結局靴擦れだった)。記念写真を撮ってひとまず水場まで行き、そこで休憩。冷たい水で顔を洗い口を漱いだ。とても気持ちが良い。

左【笠新道下山:もう一度登れそう】

 後は長い林道を行くだけ。しかし増田さんの指さす方向に私たちの登った山並みがあり、その都度確認しながらで、飽きなかった。林道沿いの小さな花たちも、脇を流れる川も、きれいだった。途中風穴があり、通る瞬間涼やかな風がながれてくる所もある。

 新穂高温泉でまずビールで乾杯。お腹が空いたと相変わらず騒ぐ私の提言で、食事もそこで済ます。そして車の所に戻った後、温泉へ。温泉はR471を1.5キロほど南下した通り沿いにある「ひがくの湯」。露天風呂でまだ新しく、気持ちが良かった。一人800円。タオルつき(バスタオルは使用後返却)、シャンプー・ボデイシャンプー・ドライヤー・化粧水・乳液・ブラシあり。脱衣室床暖房。和室の休憩室もあり。ここは気に入った。狭からず大きからず、しかし夏のシーズン中混む可能性は大。

【まとめ】
 今回笠ヶ岳山頂を踏めなかったのは残念だった。残雪期といえどもトレースのない急登のルートを辿るのは大変で、仲間と行ったから行けたのだと思う。いろいろなアクシデントもあったが、みなで力を合わせて行動できたし、山頂未踏ながら充実した楽しい山行だった。