左【雪渓を歩く】
再び雪渓を登り尾根に辿り着いた、と思いきや・・・・はるか彼方に笠ヶ岳の稜線が姿を現す。一同愕然。遠い、なんて遠いのだろう。予定していた笠ヶ岳直下のテン場まで、この日のうちに辿り着けるのだろうか、と思いつつ歩き出すと、その目と鼻の先に先行の4人がテントを張っていた。言葉を交わしたあと、私たちはもう少し上に行くことにした。地図で見ると夏道は眼下の杓子平を通り、抜戸岳の左側の鞍部に出る。残雪のたっぷりある今は、抜戸岳山頂方向を目指して行った。そして笠ヶ岳山荘まではきついと判断、抜戸岳山頂の直下でテント設営となった。
テントの中に入ってようやく皆でくつろいだ。ねぎらいの声を掛け合って、持ち寄ったアルコールとつまみを分け合い、飲んで食べながら夕餉の準備。この日一日で話題には事欠かない。失敗も苦しかったことも全て共通項の、楽しいひとときである。蒲原さんが持ってきたカツオのはらみは美味しかったが、テントの中で焼いたので煙りモウモウ・・・。その匂いは帰宅後のザックや荷物にも残っていた。今夜のメニューは酢豚と海藻サラダ。食当は私だった。5人分には少ないかなと思っていたら意外にも皆小食だった。疲れて食べられない人、もともと小食の人、お酒飲みで食べない人、それぞれだが、メンバーによって、随分と勝手が違うものである。アルファ米も用意していたが、結局使わなかった。非常食に早変わりであった。食当はメニューと量を、メンバーの顔ぶれで考え、決めましょう(学習その3)。
翌日は3時起床、4時山頂を目指すことに決め、早々にシュラフへ。しばらくの間話し、8時過ぎたころ眠ろうとしたら、雨音!夜中じゅう、降ったり止んだりを繰り返していた。明日午後曇りの予報が早まったのだろうか。山の天気はやはり変わりやすい。
二日目(6/9)
3時、リーダーの起床に合わせて皆も起きた。外はやはり雨が降ったり止んだりしている。お茶を飲みながら、朝食のうどんの用意。途中外の様子を見に行った増田リーダーの出した結論は山頂断念。自然とのんびりモードになった。それにしても、テント泊で短時間の準備を考えると、もっと簡単なメニューでないといけなかった。水もうどんも冷たいし、人数が多くなれば温めるのに時間がかかる。今まで仲間との山行も夫と行くときもこんな調子で食事はけっこうしっかり摂っていた。が、これも山行、メンバーなどで判断の必要あり(学習その4)。
左【抜戸岳】
テントを撤収し片づけ終わった頃、青空がのぞき笠の姿もくっきりと見えてきた。何という間の悪さ。山頂へ向かうには荷物をまたやり直さねばならない。往復にどれほどかかるか分からない現状ではこれから向かうわけにも行かず、笠ヶ岳の姿を眺められただけでも良しとしよう。とりあえずアイゼンをつけ、ピッケルだけ持って抜戸岳山頂へ向かった。早朝一番の登りはきつかった。私だけかと思ったら、皆同様だったようだ。まあまあ安定の良い場所で笠ヶ岳を眺めた。行けなかった無念さが残る。あと一息のてっぺんに3人がよじ登り、田中さんと私はその場から笠ヶ岳方面と、北アルプスの山並みを眺めていた。壮観であった。てっぺんからみると稜線上は夏道が出ているようであった。もし雨が降っていなければ、行けたなぁ・・・と言いつつ、みんなで記念写真を撮って、テン場まで戻り、同ルートを下山する。
前日の登りのきつさを思えば、この日の下りもまた気を引き締めて行かなければならないところが続く。笠ヶ岳の稜線に未練を残しつつ、杓子平の上部添いに戻った。最後に山頂を眺めた後、一気に下る。ヤブはあまり通らず、雪渓を何度か横切ったり、下ったりした。先頭の川口さんが少しだけ(3-4mほど)滑った。とっさにアイゼンで滑落停止。「さすが!」と私。「お見事!」と増田さん。
登りでつけた目印を目安に方向を見、所々で増田さんが先に様子を見に走っていった。雪の上だが何と身のこなしの軽いこと。途中から蒲原さんに代わるが急斜面では後ろ向きになってピッケルを利かせ、確実に下っていく。模範的で確実な歩き方を見習う。私の場合、こういう場所はかなり歩いているし、失敗もあった分慎重だ。しかしいつもと勝手の違うメンバーの中にいて、いつも以上に仲間に迷惑を掛けられないという思いが強くなる。自分自身怪我をしたくないし、リーダーや仲間に負担を掛けないためにも事故を起こしてはならない。そういう私なりのプレッシャーの中で、彼等の行動に学ぶ点は多かった。滑落停止のやり方、カバーの仕方など然り。経験豊富な仲間と一緒の山行ならではである(学習その5)。
左【笠新道下り】
殆ど夏道になったところでアイゼンを外し、下だけはいていた合羽も脱いだ。天気は良くなっており、暑かったのでホッとする。その頃になると再びイワカガミ(コイワカガミ?)やイワナシ、ショウジョウバカマなどが目を楽しませてくれる。だんだんときれいな新緑が目にはいるようになるが、残雪もまだ所々に現れる。こういうところでうっかり滑りやすい、と思ったらつるりと田中さん尻餅。既に心配する場所ではなかった。2000m位置より下がると視界はブナ林などのきれいな新緑に代わり、穂高連峰の姿が隠れてしまう。途中でピッケルも片づけ、あとはひたすら急な下りを行くだけ。田中さんのペースが落ちたなぁ・・と思い、膝にきているのかと尋ねてみたが、そうではないという。新しい靴だからそのせいかなと思いつつ、なんとかそのまま下山口へ辿り着いた(結局靴擦れだった)。記念写真を撮ってひとまず水場まで行き、そこで休憩。冷たい水で顔を洗い口を漱いだ。とても気持ちが良い。
左【笠新道下山:もう一度登れそう】
後は長い林道を行くだけ。しかし増田さんの指さす方向に私たちの登った山並みがあり、その都度確認しながらで、飽きなかった。林道沿いの小さな花たちも、脇を流れる川も、きれいだった。途中風穴があり、通る瞬間涼やかな風がながれてくる所もある。
新穂高温泉でまずビールで乾杯。お腹が空いたと相変わらず騒ぐ私の提言で、食事もそこで済ます。そして車の所に戻った後、温泉へ。温泉はR471を1.5キロほど南下した通り沿いにある「ひがくの湯」。露天風呂でまだ新しく、気持ちが良かった。一人800円。タオルつき(バスタオルは使用後返却)、シャンプー・ボデイシャンプー・ドライヤー・化粧水・乳液・ブラシあり。脱衣室床暖房。和室の休憩室もあり。ここは気に入った。狭からず大きからず、しかし夏のシーズン中混む可能性は大。
【まとめ】
今回笠ヶ岳山頂を踏めなかったのは残念だった。残雪期といえどもトレースのない急登のルートを辿るのは大変で、仲間と行ったから行けたのだと思う。いろいろなアクシデントもあったが、みなで力を合わせて行動できたし、山頂未踏ながら充実した楽しい山行だった。