【16日】
青木鉱泉で仮眠後、6時起床。眠い目をこすりながら朝食・片付け・パッキングと済ませ、出発。登山口が見つからなかったり(【白樺林】と書かれた立て札の所を入るので要注意)、道も定かでなかったりしたが、そこは青木さんの野生の勘でクリア。御座石鉱泉では飼い犬に吠えられて、しっかり鳳凰小屋の幕営料をとられることになった。その後歩きながら営業利益をめぐっての山小屋談義となった。小屋経営は儲かるか否やと。
山道は急登。私は2ヶ月のブランクで皆についていけるかと心配だった。しかも足拵えは昨夜井口さんからお借りした初めての革靴。いきなりこんな縦走にいいのだろうかとそれも不安だった。サイズは幸いピッタリだったが、思った以上に重い。
落葉寸前の落葉松と紅葉を楽しみながら、ゆっくり登っていったが、案の定辛くなってきた。やはり足が重い(靴をはかなくても・・)。三人の殿方が荷物を少し軽くしてくれて(ごめんなさい)、再び歩く頃は雪が段々と深くなっていた。
燕頭山迄とても長く感じた。笹原に囲まれた山頂で昼食。天気は申し分なく良い。そこから今夜のBCとなる鳳凰小屋までは比較的なだらかな道で、少しずつ靴にも慣れてきた。やっと小屋が見えた時、先頭の青木さんに続く私は早く辿りつきたい一心で「青木さんおそいよ」と一言。まったく現金なものだと大笑いされたがその元気も5分とは続かない。
小屋の中でテントを張れるスペースがあってラッキーだった。会話も弾み、しゃぶしゃぶで体も温まり、7時過ぎにはシュラフの中に潜り込むことができて、そのときばかりは雲上の幸せ。
【17日】
10時間ほどの睡眠時間がとってあったのに30分ほど寝坊(5時半起床)。リーダーが入れてくださる(こういうときだけ丁寧語)コーヒーで目を覚まし、朝食は昨夜のしゃぶしゃぶとご飯の残りで雑炊。これも体があったまる。シャキッとみんなで機敏に片付け、今日も天気は良さそうだと気分をよくして出発。差し込む陽に輝く雪を踏みしめて、気持ちよく急登に耐えた。常に視界にはいっているオベリスク!真っ青な空に悠然と伸びている。近くとも遠くとも思えるその山頂(賽の河原)にたどり着くと、地蔵岳の名の通りお地蔵様が並んでいた。すぐ側に雪化粧した甲斐駒、仙丈、北岳が雄大は姿を現し、遠くは北アルプスの山並みまで望め、反対側は冠雪した富士が絵に描いたように華麗に映っていた。歓声と溜息、ここまで苦労して登った甲斐があったと思えるひとときだ。その感動をと、青木さんが早速井口さんにコール。携帯電話は感度良好。
観音〜薬師にいたる稜線は風も無く穏やかだったが、観音の手前の急登はザイルを用意したり、アイゼンを装着したりでちょっと手間取った。肌寒さを感じたのはこの時だけ。これまで軽アイゼンしか使ったことが無い私は、初めて使う12本歯のアイゼンに、更なる足枷をはめられたように感じたが、岩や雪の登りに、なるほどと信頼を深めたことは確かだった。
観音岳で昼食。鳳凰最高峰に立って、嬉しくてならなかった。展望に見とれて、その場にゆっくりしたかったが、時間に急かされて、急いでアイゼンを外し、再び稜線を歩き始めた。
薬師岳で最後の景観を楽しみ、満足の面持ちで下山。この先3時間の道のりだが雪の下りは不慣れで苦手だ。この下りにアイゼンを使わなかったのがとても不可解だったが「慣れればこの方が歩きやすいから」と麦島さんに励まされ、青木さんに「転んだらビール1本おごり」と叱咤激励?され、渋谷さんには心配顔で労わられて、必死に滑り下りた(尻餅は数知れず)。しかしその恐かったこと。思わず雪上訓練の義務感が頭をよぎった。笹につかまり、ピッケルを突いて下りたものだから、足腰のみならず腕までも筋肉痛となってしまった(後日談)。それにしても青木さんは人間業とは思えない身のこなし、まるで山猿(ゴメン!)のよう。
無事に青木鉱泉に到着し、入浴してホッと一息ついた。皆さんに助けられて、楽しい山歩きができ感謝。2ヶ月のブランクはかなり体に応えたが、これからはもっと体力づくりをしておかないとマズイ、一緒に歩かせてもらえなくなるぞと痛感。
帰り道に食べた山梨名物のほうとうは美味しくて、生き返った心地だった。 |