中ア;  宝剣岳〜木曽駒ヶ岳
(ほうけんだけ〜きそこまがたけ)

残雪の油断、滑落あわや!


 H9.6/11-12(水〜木)前日発 ; Member.計2名

【一日目】
千畳敷9:00〜乗越浄土9:30-40〜宝剣岳〜三ノ沢岳分岐10:30-40
宝剣岳11:00-10〜宝剣山荘11:25〜木曽駒ヶ岳12:00-40〜
濃ヶ池分岐2:00〜(引き返す)〜濃ヶ池分岐2:30〜
木曽駒ヶ岳16:00〜頂上木曽小屋16:05

【二日目】
頂上木曽小屋9:45〜木曽駒ヶ岳山頂9:50〜中岳10:10-35〜
乗越浄土10:55〜千畳敷11:10


【一日目】
千畳敷9:00〜乗越浄土9:30-40〜宝剣岳〜三ノ沢岳分岐10:30-40
宝剣岳11:00-10〜宝剣山荘11:25〜木曽駒ヶ岳12:00-40〜
濃ヶ池分岐2:00〜(引き返す)〜濃ヶ池分岐2:30〜
木曽駒ヶ岳16:00〜頂上木曽小屋16:05

 前夜発で中央アルプス木曽駒へ。中アへは、私はもちろん、裕子さんも初めてだそうだ。残雪は大したことなかろうと高を括り、アイゼンは所持品から外す。裕子さんはピッケルを持ってきたが、私はないので夫のストックで間に合わせた。

 深夜の中央道は、珍しく?安全運転の裕子さんにしても3時間半で駒ヶ根の駐車場に着いてしまった(私が飛ばし過ぎたか?)。車中で仮眠の間も雨の音。

 ロープウェイ乗り場のしらび平までは一般車通行止めのためバスに乗り換える。約30分、狭い道路をぐんぐん登っていく。雨に濡れた緑は新鮮に映り、未知の中央アルプスに心が逸る。

 ロープウェイで更に高度をかせぎ、降り立った千畳敷にいよいよの思いが高まる。

 時折小雨でガスも出ているが、宝剣から伊那前岳に至る稜線はきれいに見える。6人パーティの足にはしっかりとアイゼンがはめられており、瞬間不安がよぎる。雪が柔らかいこの時期、アイゼンは邪魔だろうと気を取り直し、先に行く。極楽平へコースをとる予定だったが、初っぱなから間違えたようだ。千畳敷カールは思った以上の残雪で、踏み跡がはっきり分からない。迷っている間に6人パーティが先行し、乗越方面へと向かっていた。ならばと我々もそちらへ便乗し、ついていった。

 先に乗越に着いた私達は少し休んだ後、営業中の宝剣山荘を確認して宝剣岳へ。しかし山頂と思われたところに表示がなく、そのまま通り過ぎてしまった。半信半疑でとりあえず確認できるところまで行こうと三ノ沢岳の分岐まで行った。そこまで来れば三ノ沢岳まで足を伸ばしたくなる。が、このロスタイムをこれ以上増やすわけには行かない。視界も良くないしあきらめはつく。小休止して再び宝剣岳へ。やはり表示はないが、岩陰に祠があった。天にそびえる大きな岩に登る人もいるのだろうが、私にはそんな勇気は無かった。

 山荘へは15分ほどで戻り、そのまま通過して木曽駒へ。その辺りは夏ならばコマクサが沢山咲くようだ。

 山頂はガスで見えなかったが声が響いてくる。先程のパーティだった。乗越からここまで雪は解けて歩きやすかった。しかしいぜんとして、展望を望めないのが寂しかった。簡単に昼食を済ませ、近くの頂上木曽小屋営業中の札をインプットしてから濃ヶ池へ向かう。ガスのため狭い視界の中で、残雪の上を歩いていくのは何とも心許ない。

 しかし、明るい裕子さんと話は弾み、思いがけなく咲いていたキバナシャクナゲや、コメバツガザクラなどで心も弾んだ。

 コースタイムより時間のかかりすぎるのが気になった。二人の胸に引き返そうかと思いつつ、納得のいく地点にたどり着きたいという思いが交錯し始めた。

 やっと着いた濃ヶ池への分岐、ここで引き返せば問題はなかった。しかし、先に道はついている。予定通り濃ヶ池へと進んだ。思いの外残雪が多く、白樺の木々がなぎ倒されている。それらをくぐり、またぎ、押しのけて進んでいった。と、先に行く裕子さんがハタと考えて、白樺をよけて上からまわるべくキックステップを始めた。そのまま行けるのではないかと思い、私はまたいでしまった。しかし、ザックの重みと微妙な木の揺れが、足場を作る前に私のバランスを崩してしまったようだ。アッと思った瞬間私は滑り落ちていた。不思議と危機感も恐怖心もなかった。滑りながらシマッタ!裕子さんにスマナイ事をしてしまったという後悔と、また登り直さなきゃならないじゃないかという思いが先に立った。既にストックは私の手から離れ、合羽を着ている体はどんどん加速がついていく。何とかしなきゃと白樺にしがみつこうとするが、雨で濡れた枝は掴んでも掴んでもすり抜けてしまう。やっと枝に足が引っかかり、やや太い枝をつかんだ。ゆっくり立ち上がって、上を見上げたら「大丈夫ですか」という裕子さんの声。きっと呆然と見おろしていたのだろう。可哀想に心配かけてしまったとまず謝った。立ったまま下を見てみた。もう白樺の木がない。そのまま下っている雪の白さだけが目についた。その先はガスで見えなかった。この木がラストチャンスだったのか。上に戻るまで気は抜けない。運良く足下に滑って戻ってきたストックと、白樺をたよりにキックステップを踏んだ。あ〜ぁドジ!と自分を叱りながら。かすり傷一つ負わなかったのは幸いだった。

 これで迷いが吹っ切れて、結局戻ることにした。
明日はロープウェイを使わず北御所登山口まで下山するつもりだったが、予想以上の残雪と、滑落という思いがけない出来事で、とり止めることにした。少し甘かったかなという反省のもとに…。

 同じ尾根道を、いくらかホッとした気分で歩いていると、今まで見えなかった木曽御嶽山、乗鞍岳、北アルプスの峰々が見えてきた。槍までくっきりと見えた。喜んで写真を撮っているとアッという間に又ガスで隠れてしまったが、感激でとっても晴れやかな気持ちだった。

 再び木曽駒山頂に到着し、そのまま山頂小屋へ。果たして?小屋は開いていた。さすがに嬉しかった。私達の後から男性が一人来て3人だけだった。電気はついていてトイレは清潔だし、少し雨漏りはするそうだけれど、おじさんがとても親切なのでこの小屋はお薦めだ。



【二日目】
頂上木曽小屋9:45〜木曽駒ヶ岳山頂9:50〜中岳10:10-35〜
乗越浄土10:55〜千畳敷11:10

 小屋のおじさんにもらったホッカイロで布団の中は快適だった。翌朝の晴天を期待していたが、外は雨。強く降る度に雪崩の心配は出てこないだろうかと気になった。

 朝は期待に反してガスがかかっていた。雨こそ降っていなかったが、東の窓から見える筈の宝剣や木曽駒は望めなかった。6時の朝食を済ませた後も外の様子を伺っていた。ロープウェイで下山と予定を変更していたので話しながらのんびりと待っていた。しかし、晴れる様子はない。とうとう諦めて出発。少し先に出た男性が合羽を忘れていったので、後を追ったがガスで視界も悪く、声も届かなかった。その後どうしただろうと気になったが、雨に降られないことを祈るしかない。

 昨日中岳を巻いてしまったので、今日は間違えないように行ってピークを踏んだ。30分ほどゆっくりしていたら瞬間ガスが流れて足下から木曽駒の山頂まで姿を現してくれた。穏やかな山容だ。

 心置きなく中岳を後にして、千畳敷へと向かった。道幅は広いがロープが張ってあるのでガスっていても道を誤ることはない。

 難なく乗越まで来たが、ここから又千畳敷カールを下る。裕子さんの後ろから下りて行くから落ちないように、石も落とさないようにと緊張しつつ、昨日の滑落が頭をよぎる。数年前ここの雪崩で人が亡くなった事故と昨夜の雨も思い出す。裕子さんに言われた通りストックを突きながら、気持ちを落ち着かせて無事下山。

 千畳敷ホテルで裕子さんはビール、私はぜんざいで乾杯。

 駐車場に戻った後は1年前に出来たという新しい早太郎温泉〈こまくさの湯〉につかってきた。500円と安い。お風呂の後はその近くのやはり新しく出来たお蕎麦屋さんで食事。

 今度はお花のきれいな時期にもう一度来たいものだ。

”滑落の吾を救いし白樺は残雪に押し倒されて生く”
”閉ざされし視界に浮かぶ尖峰の束の間に出て馬の背に見む”
”雪を剥ぐ目覚めの中央アルプスにキバナシャクナゲ雨に濡れおり”
”ガスの中陽を諦めて木曽駒を下れば近くイワヒバリ啼く”